【臨床心理士の経験】13トリソミーと診断された家族のその後|“混乱”と“選択”のプロセス

13トリソミーはNIPT(新型出生前診断)でわかる3つのトリソミー(21,18,13トリソミー)の中でも割合が少ない疾患です。臨床心理士として6年半勤務していた総合周産期母子医療センターでも数例しかお会いしたことがありません。

この記事では一般的に知る機会の少ない13トリソミーという疾患をご紹介し、ご家族が13トリソミーを持つ赤ちゃんとどのように過ごしたのか経験をもとにお伝えします。

目次

13トリソミーの特徴|知っておきたい身体的・発達的なポイント

染色体の変化によって起こる先天性疾患

人は通常、46本(23対)の染色体を持っています。13番目の染色体が通常の2本ではなく1本多い3本存在する状態を「13トリソミー」と呼びます。この症状を遺伝疾患として初めて報告したドイツ人医師クラウス・パトウ(Klaus Patau)の名をとって、別名パトウ症候群とも言います。

13トリソミー症候群を持つ赤ちゃんは、5,000〜12,000人に1人の割合で生まれてきます。ダウン症(21トリソミー)、18トリソミーに次いで多い疾患となっています。初期流産や死産となる確率も高く、その確率は90%というデータもあります。よって、流産後に検査をして13トリソミーだとわかるケースも少なくありません。

13トリソミーの主な症状と合併症

13トリソミーの赤ちゃんは口唇裂や口蓋裂などの口や顔の特徴で気がつかれ、身体が平均よりも小さい、足や手の指が1本多くある多指症など複数のことがきっかけで、妊娠中に詳しい検査を受けるよう言われることがあります。

21トリソミー、18トリソミーと同様に心臓の病気もとても多く、心臓に穴があいているタイプや、血流に異常があるタイプなどさまざまです。また、肺の血管に負担がかかることで手術が難しくなる場合もあります。

心臓以外にもさまざまな体の器官に問題が見られることがあります。たとえば、脳や神経に関する異常(呼吸をうまく調整できない、脳の発達の遅れなど)があり、それが命にかかわる原因になることもあります。また、気道や肺の発達に問題があると、呼吸が苦しくなったり、人工呼吸器のサポートが必要になることもあります。

お腹の中の臓器の位置や形の異常に加え口唇口蓋裂がある赤ちゃんも多く、ミルクが飲みにくい場合が多いです。その場合チューブでミルクを注入したり手術が必要になるケースもあります。

生存率と医療的なケア|限られた時間をどう生きるか

合併症にもよりますが、13トリソミーの赤ちゃんは約80%が1ヶ月以内に亡くなり、1年生存率は10%以下と言われています。18トリソミー同様、以前は産まれたら看取るのが当たり前という考え方が主流でしたが、現在では疾患名にとらわれず個々の症状により手術が行われる場合もあります。心臓の手術をした場合の生存期間の中央値は14.8年1)と言われ、従来のようにすぐに亡くなってしまうイメージとは違う例も報告されています。

ただ多くの赤ちゃんが短い命であるということには変わりありません。妊娠中であれ、出生後であれ、わが子との別れが近いことを意識し、不安と悲しみを抱えながら過ごす時間は耐え難いものです。

一方、それだけではなく、多くの赤ちゃんが流産や死産する確率が高い中でこれまで生きてきたことに目を向け、自分たちの元に授かった意味を考え、限られた時間をどう過ごすかに思いを巡らせる人も少なくありません。

これらの気持ちは一方向に進むものではなく、振り子のように行きつ戻りつしながら揺れ動くものです。ある時は「この子が生まれてきた意味」に目を向けて前向きな思いに包まれていても、ふとした瞬間に深い悲しみが胸を突くこともあります。それは弱さではなく、愛情ゆえのごく自然な心の動きです。限られた命であっても、その時間が「かけがえのない親子の物語」として経験されるといいですね。

妊娠中に『陽性』と診断された妊婦さんの葛藤とその後の選択

NIPTによって13トリソミーと判明した場合、遺伝カウンセリングを受けた上で多くの妊婦さんが中絶を選ぶ傾向があります。そのため、さらなる心理的支援を受ける必要はないと医療者に判断されることも多いです。こうした背景からか、実際私が総合周産期母子医療センターに勤務していた6年半の間に13トリソミーの妊婦さんに出会う機会はありませんでした。

早いうちに中絶するという一見合理的で理性的に見えるこの対応の背景には、強い感情を意識にのぼらせないよう感情に蓋をする心理的防衛機制(否認や抑圧)が働いていることもあります。これは心を守るための自然な反応ですが、中絶から随分経過した後に後悔や自責の念が心身の不調となって現れる方もいるため注意が必要です。

書籍『いつかあなたに誇れるように~天国の娘に誓う~』では、妊娠中に13トリソミーと診断された母親の心の動きが詳細に紹介されていました。その母親は妊娠初期には「どんな命も大切」と考え、NIPTを受けない選択をしていました。

しかし、妊娠26週を過ぎた時点で羊水検査を勧められ、その2週間後13トリソミーであることが明らかになると、現実の重さに直面し、大きな感情の揺れを経験します。医師からは、胎内死亡、分娩中の死亡、生後すぐの死の可能性について説明され、延命措置の有無を問われる場面もありました。

家族内でも意見が分かれるなか、命の意味や自らの価値観、そして親としての覚悟を何度も問い直す日々が続いたとされています。「この命にどんな意味があるのか」「今この子はお腹の中で生きている」そうした問いに真摯に向き合いながら、自分なりの答えを模索していく姿が描かれていました。診断を受けた妊婦さんが限られた時間のなかで、非常に深い葛藤と向き合っていることを示しています。

出産後に診断されたご家族の気持ち

※本記事に登場するエピソードは、実際の事例をもとに構成した架空の事例です。個人が特定されることはありません。

県をまたいで搬送されてきた赤ちゃんは、38週で生まれた体重2400gの男の子でした。出生直後から呼吸が弱くチアノーゼが見られたため、すぐに人工呼吸器が使われました。心臓にはいくつかの穴があり、多指症、口唇裂、小頭症などの特徴から13トリソミーと診断されました。

呼吸状態が悪く無呼吸発作もあり、面会中に抱っこもできないほど重篤な状態。ご両親は命が繋がるかどうかの不安と緊張のなか面会に通っていました。

ご両親は40代の再婚同士のご夫婦で、高校生のお兄ちゃんのいるステップファミリー。出産は地元の産院で行われ、出生後すぐに大きな病院に転院。その後さらに対応可能なNICUを求めて筆者の勤務していた県外の病院に搬送されました。

赤ちゃんは人工呼吸器につながれ、てんかん発作を防ぐため鎮静状態にありました。お母さんは「頑張ってるね」と涙を浮かべながら赤ちゃんの手をさすり、長い時間ベッドサイドに座っていました。

週に2〜3回の面会は高速道路は使わず一般道で来ていました。ご両親で来ることが多く「ドライブと思えば楽しいですよ」と明るく話されていましたが、本当はとても大変だったと思います。

薬が効き始めててんかん発作が落ち着き、赤ちゃんは目を覚ます時間も増え、少量ではあるものの口からミルクを飲めるようになりました。ご家族もその成長を喜びながら、面会を続けていました。

ただやはり片道2時間の道のりは遠く「家に帰って電話が鳴るたびにドキッとします。すぐに駆けつけられないので…」と遠方にわが子が入院している不安を語っていました。

心臓の手術を乗り越え、病状が安定したため、ようやく地元の病院へ転院が決定しました。入院から3か月、ようやくNICUでお兄ちゃんとの初めての面会も実現。「写真で見てたより小さかった」と話してくれた言葉から、家族の一員としての実感が少しずつ芽生えていたように感じました。

こちらのご両親は13トリソミーという診断を受けたとき、気持ちを多く語ることはありませんでしたが、転院が決まったとき「まさか地元に帰れるなんて思っていませんでした。次に来る時には亡くなっているかもしれない…そう思いながら通っていました。年齢的にも、こうやって生まれてきてくれただけで奇跡だと、よく夫婦で話していたんです」と語ってくださいました。続けて「地元の病院に帰れるなら、次は家にも帰れるかもって欲が出てきますね。地元の先生も『家に帰ることを目指しましょう』って言ってくれて…」と、希望を口にされました。

その言葉どおり赤ちゃんは無事に転院。しかし、転院からわずか1週間後に亡くなったという連絡を受けました。スタッフ一同、深い悲しみとともに「転院は正しかったのだろうか」「タイミングを誤ったのではないか」と自問する日々が続きました。赤ちゃんにとって、長距離移動は確かに大きな負担だったかもしれません。

そんな中、ご両親が後日ご挨拶に来てくださいました。「短い時間でしたが、近くに戻ってきたことが本当にうれしかった。〇〇もホッとしたのかもしれません」と語ってくださいました。

このご家族の物語は、どれほど短い時間であっても、そこで積み重ねられる関わりや関係性には深い意味があることを改めて示してくれました。臨床心理士として傍で見ていて、限られた時間の中で交わされる言葉やまなざし、触れ合いのひとつひとつが、かけがえのない絆を育むことを改めて感じました。

臨床心理士からご家族へ伝えたいこと

お腹の中にいるときは、赤ちゃんの存在がまだ実感しにくく「障がいを持って生まれるとわかっていて育てることは、親のエゴではないか」と葛藤する方も少なくありません。その苦しみの中で「この子は生まれてきても、苦しむだけなのではないか」と考えてしまうのも自然な心の動きです。

一方で、生まれてから13トリソミーと診断を受けた場合には、すでに「わが子」として出会っていることが多く、診断を受ける前に感じた喜びやすでに芽生えた愛着が影響します。

よく言われるように、前者は「病気の赤ちゃん」として捉えやすく後者は「赤ちゃんの病気」として捉える傾向があると言われています。出生後に診断を受けたご家族は「わが子が病気であること」に対して、自分のことのように痛みや苦しみを感じながらも「一緒に過ごしたい」という思いを強くされる方が多くいらっしゃいます。

「13トリソミー=短命」「障がい児=不幸」という情報だけで判断するのではなく、ご自身の感情と丁寧に向き合い、ご家族とも話し合いながら、一緒に考えていただけたらと願っています。

【引用・参考文献】

1)西 恵理子:13トリソミー症候群や18トリソミー症候群をもつ子どもへの包括的医療(自然歴,健康管理指針).小児科診療 86(9):1037-1045,2023.
2)岸 勘太:13トリソミー症候群.小児内科56(4):595–598,2024.
3)水沢 文美:いつかあなたに誇れるように~天国の娘に誓う~.文芸社,2023

なっち
NIPTカウンセラー
学会認定NIPTカウンセラー
300組以上の夫婦にカウンセリングを実施
看護師・助産師
2児の母
経験や知識をもとにNIPTや妊娠に役立つ情報をわかりやすく解説します。

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この記事を書いた人

NIPTカウンセラー
■ 助産師6年、NIPTカウンセラー5年
■ 300組以上のカップルにNIPTのカウンセリングを実施。NIPTカウンセリングの経験を活かしてNIPTに関する情報発信中

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