NICUは、たくさんの機械が並んでいて、「こんなに機械に囲まれていて大丈夫かな?」と不安になるパパやママも多いかもしれません。
でも、安心して下さい。NICUにある機器たちは、すべて赤ちゃんを守るための大切なものです。
今回は、臨床工学技士として病院で医療機器の管理を担当している私から、NICU(新生児集中治療室)で使われている保育器や医療機器について、分かりやすくご紹介します。

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現役の臨床工学技士として働きながら、ブログ運営や医療系ライターとしても活動しています。
これまで総合病院での勤務を経て、現在は透析クリニックに勤めています。
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NICUは赤ちゃんを守る医療機器がそろった特別な部屋
生まれたばかりの赤ちゃんの中には、まだ体の機能がじゅうぶんに育っていなかったり、特別なケアが必要な子がいます。
そうした赤ちゃんを助けるためにあるのがNICU(Neonatal Intensive Care Unit)という特別なお部屋です。
NICUには、赤ちゃんの体を守るための医療機器や、赤ちゃんを見守るたくさんの専門スタッフがそろっています。
ここでは、NICUにある機械や、赤ちゃんのそばで働く人たちについて、わかりやすく紹介していきます。
H3: NICUとは赤ちゃん専用の集中治療室
NICUとは、何らかの疾患のある赤ちゃんを集中的に管理・治療するための部屋です。
大人のICU(集中治療室)と同じように、赤ちゃんの命と健康を守るために24時間体制で、医師や看護師、専門のスタッフが見守っています。
また、NICUには、赤ちゃんの状態を管理するためにたくさんの医療機器があります。臨床工学技士は、これらの機械が正しく安全に使えるように、機械の点検・操作・トラブル対応を行い、赤ちゃんが安心して治療を受けられるように医療機器の面からサポートを行っています。
H3: 保育器とは赤ちゃんを包む“安全なお部屋”
NICUに入った赤ちゃんの多くは、保育器という透明の箱のような機械の中にいます。
保育器は、ただの箱ではありません。
NICUに入る赤ちゃんは、下記の状態が多いです。
- 体温がうまく保てない
- 呼吸が不安定
- 感染しやすい
つまり、保育器は、「保温・加湿・酸素管理・感染防止」を行いながら赤ちゃんが少しずつ元気になっていくためのお部屋です。
また、保育器が透明なのは、いつでも赤ちゃんの状態を観察できるようにするためです。
NICUにある医療機器は、どんなことを助けてくれるの?
NICUには保育器以外にも、呼吸を助ける機械、赤ちゃんの体温や血圧を見守るモニター、栄養やお薬を届ける点滴など、赤ちゃんの命を支えるたくさんの医療機器があります。
これらの機器があるからこそ、まだ未熟な赤ちゃんも少しずつ力をつけて、元気に育っていくことができます。
赤ちゃんがNICUに入るのはどんなとき?よくある理由と機器の使われ方
引用:photoAC/写真素材:NICU新生児集中治療室GCU回復治療室
赤ちゃんがNICUに入るときは、早く生まれる(早産)ことや、体が小さい(低出生体重児)という理由が多いです。
病院によってNICUに入る基準は変わりますが、その他にも、下記の理由で入る人がいます。
- 早産・低体重
- 呼吸障害や呼吸管理が必要な場合
- 先天性疾患や重度の奇形
- 重症感染症や心不全症状
- 痙攣や強い黄疸など、重篤な症状がある場合
- 外科的手術が必要な場合や術後管理が必要な場合
NICUに入る理由①早く生まれた(早産)・体が小さい(低出生体重児)
お母さんのお腹の中で十分に成長する前に生まれると、赤ちゃんの体の機能がまだ未熟なことがあり、下記の状態になりやすいです。
- 自分でうまく呼吸ができない
- 体温を保つのが難しい
- 栄養を上手にとれない
体の機能が弱い赤ちゃんのために、NICUで医療機器を使いながら成長をサポートします。
NICUに入る理由②呼吸がうまくできない・体温が安定しない
赤ちゃんはお母さんのお腹の中では、へその緒から酸素や栄養をもらっています。でも、早く生まれた赤ちゃんは、自分の力だけでは呼吸や体温調整がうまくできません。
そのためNICUでは、下記の3つのサポートを行い、赤ちゃんが元気に育つのを見守っています。
- 保育器で体温を守る
- 酸素療法や人工呼吸器で呼吸を助ける
- 点滴やポンプでお薬や栄養を届ける
NICUに入る理由③出産時のトラブルや、体調の変化があったとき
出産中に何らかのトラブルがあったり、赤ちゃんの状態に変化があったときも、NICUでしっかりと観察と治療を行います。
必要に応じて、さまざまな医療機器が使われ、赤ちゃんの回復を手助けします。
次に、NICUでよく使用される医療機器について解説していきます。
NICUで使われる医療機器をやさしく紹介します
NICUでは、多くの医療機器が使用されています。その中でも多く使用される医療機器について分かりやすく紹介していきます。
保育器の役割(赤ちゃんの体温を管理する部屋)
引用:illustAC/保育器
NICUに入る赤ちゃんは、多くの場合「保育器」に入ります。
これは、赤ちゃんの体を守り、元気に育つのを助ける特別なベッドのようなものです。
赤ちゃんは、まだ体温を自分でうまく保てなかったり、呼吸が安定しなかったり、感染に弱かったりすることがあります。
そんな赤ちゃんを守るために、保育器はとても大切な役割を果たします。
H4: 保育器がしてくれること
保育器は、赤ちゃんのために次のようなサポートをしてくれます。
- 体温を一定に保つ(保温)
- 空気に水分を加える(加湿)
- 必要に応じて酸素を調整する(酸素管理)
- 外からのばい菌を防ぐ(感染予防)
保育器が透明なのは、赤ちゃんの様子をいつでも見られるようにするためです。
保育器の昔と今のちがい
大昔は、なんと木の箱(りんご箱のようなもの)を使って体温管理していたそうです。
それに比べると、今の保育器はとても進化していて、温度だけでなく酸素や湿度、清潔さまでしっかり管理できるようになりました。
保育器にも種類がある
赤ちゃんの状態に合わせて、保育器には以下2つの種類があります。
- 閉鎖式保育器:外の空気をシャットアウトし、一定の温度・湿度・酸素で保たれているタイプ
- 開放式保育器:ケアや処置がしやすいように上が開いていて、赤ちゃんにすぐ手が届くタイプ
それぞれの赤ちゃんに合った保育器が使われています。
人工呼吸器・CPAP・酸素療法(呼吸を助ける機械
引用: MedicalEXPO/connect/製品/電子式人工呼吸器/Vyaire Medical
NICUに入る赤ちゃんの中には、自分の力でうまく呼吸ができない子もいます。
そんなときに使われるのが、呼吸をサポートする機械で、次の3つの種類があります。
- 人工呼吸器
- CPAP(シーパップ)
- 酸素だけを送る(酸素療法)
人工呼吸器とは赤ちゃんの呼吸を手助けしてくれる機械
人工呼吸器はマスクをお顔にあてたり、細いチューブを赤ちゃんののどに入れて、肺に空気を送り込みます。
ただ、赤ちゃんの肺はとても小さくてデリケートです。
強い力で空気を送ると肺を傷つけてしまうことがあるため、NICUでは赤ちゃん専用のやさしい設定ができる人工呼吸器が使用されます。この人工呼吸器は、弱い圧力でもしっかり呼吸の回数を増やせるような設定のものが多いです。
また、赤ちゃんの症状や状態に合わせて、いろいろな設定が使い分けられます。
例えば、以下の設定があります。
- HFOV(高頻度振動換気)モード:肺を守るために、通常よりもずっと速い回数で空気を送り込む設定
- NAVA(ナーバ)モード:赤ちゃんの体の動き(呼吸しようとするサイン)に合わせて、自然な呼吸に近い形でサポートする設定
このように人工呼吸器は、赤ちゃん一人ひとりの状態に合わせて、優しく呼吸を助けてくれる大切な機械です。
CPAP(シーパップ)とは赤ちゃんが自分で呼吸できるけれど少し助けが必要なときに使う医療機器
CPAPは、鼻に小さなチューブをつけて、肺がしぼまないように空気を送り続ける仕組みです。
赤ちゃんがラクに呼吸できるように、必要に応じてCPAPや人工呼吸器を使い分けています。
酸素だけを送る場合もあります
赤ちゃんの呼吸が安定していても、体に酸素がじゅうぶん届いていないこともあります。
酸素が足りないときは、「酸素療法」という方法で、酸素だけを追加してあげます。
保育器の中の酸素の濃度を調整したり、鼻に小さなチューブをつけて酸素を送ることもあります。
ベッドサイドモニター(心拍・酸素・体温などを見守るモニタ)
引用:NIHONKOHDEN/ホーム/医療関係の皆様へ/製品情報/モニタリング機器:ベッドサイドモニタ /ベッドサイドモニタ CSM-1000シリーズ ライフスコープG7/G5
NICUでは、赤ちゃんの小さな変化も見逃さないように、いくつかのモニターを使って赤ちゃんの状態を24時間体制で見守っています。
赤ちゃんはまだ言葉が話せず、見た目だけでは状態の変化がわかりにくいため、体に小さなセンサーをつけて、医療スタッフが常に確認できるようにしています。
モニターには、下記の種類があります。
モニターの種類 | 役割 |
---|---|
パルスオキシメーター(SpO₂モニター) | 赤ちゃんの手や足にセンサーを巻きつけて、血液の中にどれくらい酸素があるか、脈拍(心臓の速さ)を測ります。 |
非観血的血圧モニター | 赤ちゃんの腕や足に小さな血圧をつけて、定期的に血圧を測ります。 |
観血的血圧モニター | 特別な必要がある場合には、動脈に細い管を入れて、リアルタイムで血圧を詳しく測定します。 |
呼吸・心拍モニター | 胸に3つの小さな電極を貼って、心臓の動きや呼吸の速さ・深さを見守ります。 |
体温モニター | 赤ちゃんの皮膚にセンサーを貼って、体温を見守ります。 |
換気モニター・カプノメーター | 人工呼吸器を使っている赤ちゃんに対して、呼吸がうまくできているか、機械が正しく動いているかチェックします。 |
経皮的酸素分圧モニタ/経皮的二酸化炭素分圧モニタ | 採血をせずに、皮膚に貼ったセンサーから、血液の中の酸素や二酸化炭素の濃度を連続で測ることができます。 |
尿量測定 | どれくらいおしっこが出ているかを確認します。 |
上記のモニターはすべて、赤ちゃんの状態を見守るためのものです。たくさんのセンサーや機械にびっくりするかもしれませんが、どれも赤ちゃんの命を守る大切な機械です。
輸液ポンプ・シリンジポンプ・経腸栄養ポンプ(栄養やお薬を届ける点滴やチューブ)
NICUにいる赤ちゃんは、まだ自分でしっかりとミルクを飲むことができないことがあります。
うまくミルクが飲めないときは、点滴やチューブを使って、栄養や水分、お薬を無理のないペースで届けます。これは、赤ちゃんの体に負担をかけずに、必要なものを確実に届けるための大切なしくみです。
ミルクを赤ちゃんに届けるために、以下の機械が使用されます。
- 輸液ポンプ:点滴から栄養や水分を一定の速さで体に入れるための機械です。
- シリンジポンプ:体がとても小さい赤ちゃんに、お薬を正確に、時間をかけて投与するための機械です。赤ちゃんは、大人と比べてとても体が小さいので、正確にお薬を投与できるシリンジポンプはNICUで良く使用されます。
- 経腸栄養ポンプ:赤ちゃんがミルクを飲むのが難しい場合、口からチューブを通して胃にミルクやお薬を入れることがあります。このとき、一定のペースでミルクを届ける時に使うのが経腸栄養ポンプです。
黄疸光線治療機器(黄疸を治す青い光)
赤ちゃんの体はまだ未熟なため、ビリルビンを体の外に出す力が弱いです。
ビリルビンとは、古くなった赤血球が壊れたときにできる黄色い色素で、体内にたまりすぎると皮ふや白目が黄色くなる黄疸という症状があらわれます。
特に早く生まれた赤ちゃんほど、この働きが弱く黄疸が出やすくなります。
黄疸は多くの赤ちゃんに見られ、生後2〜3日目ごろから黄疸が出て、1〜2週間ほどで自然に治ると言われています。(引用:MSD家庭版マニュアル/新生児黄疸)
しかし、ビリルビンの量が多すぎると、治療が必要になることもあります。
その治療で、「黄疸光線治療器」という医療機器を使用します。
青色の特殊な光を赤ちゃんの肌にあてて、ビリルビンを分解して体の外に出しやすくする方法です。
光をあてるときは、赤ちゃんの目を守るためにアイマスク(目かくし)をつけて行います。
医療機器は誰が見てくれているの?安心のチーム体制
NICUでは、赤ちゃんの命を守るために、さまざまな医療機器が使われています。
ここでは、医療機器のスペシャリストである臨床工学技士をはじめ、NICUで働くスタッフがどのように機器を見守っているのか紹介します。
臨床工学技士は機械を管理するプロ
臨床工学技士は、医療機器のスペシャリストとして病院で働く国家資格の医療従事者です。
よく「レントゲンを撮る人?」「採血をする人?」と聞かれることがありますが、放射線技師や臨床検査技師とはまったく違う職種です。
最近では、医療技術がどんどん進歩し、それにあわせて医療機器もますます複雑で高度なものになっています。
そうした中で、医療機器を正しく、安全に使えるように支えているのが臨床工学技士です。
NICUでは、赤ちゃんの状態を支えるため、多くの機械が使われています。臨床工学技士は、それらの機械が安全に動いているかチェックし、トラブルが起きたときにはすぐに対応できるように備えています。
患者さんが安心して治療を受けられるように、機械の面から医療現場を支えています。
機器の点検・安全確認はどう行われているの?
病院で使う医療機器には、それぞれ点検のチェックリストがあります。
臨床工学技士は、そのリストにそって機械の状態をひとつひとつていねいに確認しています。
点検は、機械を使う前や使っている最中、使い終わったあとに行うことが多いです。
特にNICUやICU(集中治療室)では、看護師とこまめに話をしながら、赤ちゃんや患者さんの様子も一緒に確認しています。
また、赤ちゃんは音にとても敏感です。大きな音は赤ちゃんのストレスになることがあるので、保育器の中の音もチェックしています。
命を支える大切な機械だからこそ、少しの変化も見のがさないように気を配り、いつでも安全に使えるようにしています。
看護師さんやお医者さんとの連携で守られているNICU
NICUでは、医師・看護師・臨床工学技士・薬剤師など、たくさんの専門職がチームになって赤ちゃんを支えています。
臨床工学技士は、NICUで使われる医療機器がきちんと動くように見守りながら、赤ちゃんの治療をサポートしています。
赤ちゃんが一日でも早く元気に退院できるように、医師や看護師としっかり連携しながら、毎日赤ちゃんの命を守るために働いています。
NICUでがんばる赤ちゃんとママ・パパを支えるために
NICUには、保育器や人工呼吸器、モニター、点滴ポンプなど、たくさんの医療機器があります。どれも、赤ちゃんの小さな命を守るために、なくてはならない大切な機械です。
はじめてNICUに来られたママ・パパにとっては、たくさんの機械やコード、音のするモニターに驚き、不安になるかもしれません。でも、どうか怖がらないでください。
赤ちゃんは、まだ言葉を喋ることができません。生まれたばかりで、見た目だけでは分からないことも多いです。そのため、モニターなどの機械を使って、赤ちゃんの状態を細かく見守っています。
それは、赤ちゃんを守るために必要な“見えない目”でもあります。
たとえ体にたくさんのセンサーがついていても、赤ちゃんはちゃんと、ママ・パパの声やぬくもり、愛情を感じています。
NICUで過ごす毎日は、決して簡単ではありません。でも赤ちゃんは、小さな体で一生懸命がんばっています。私たち臨床工学技士も、医療機器のプロとして、赤ちゃんが元気に退院できる日を目指して、チームの一員として全力でサポートしています。
ママ・パパの愛情は、何よりの力です。
赤ちゃんのがんばる姿を、一緒に信じて見守っていきましょう!
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